【みんなの日本語】語彙の教え方

語彙の教え方って皆さんはどうしていますか?先生によって、最初に導入してしまう方法や、授業内で新出語彙が出たときに教える方法、また語彙は学習者自身が覚えるものだからリストを配るだけ!などといろいろな意見があると思います。今回は私なりの語彙の教え方を紹介していきます。 

2020/11/26

レベル別語彙の教え方

私は基本的に初級日本語では、最初に語彙だけの学習時間を作り、語彙を覚えてきてもらってから文法の授業をするという方法を、中級・上級日本語では授業内で新出語彙が出たときに随時教えるという方法を使っています。 

理由は、初級では具体的な言葉が多いのに対して、中級・上級では抽象的な言葉が多いからです。
具体的な言葉とは例えば「本」や「開ける」などイラストで示せるような言葉のことです。
抽象的な言葉とは例えば「生活習慣」とか「気にする」などイラストで示しにくく、文の中のほうが分かりやすい言葉のことです。 

初級を教える際はあらかじめ語彙だけの学習時間を取って、その課で使う語彙を覚えてきてもらってから文法の授業に入っています。その方が、文法の時間も文法に集中ができると思います。 

どうして語彙の学習時間を作るのか

 初級の日本語で語彙の時間を取らずに新出語彙が出てから導入する方法を取ると、文型練習の時に以下のようなことが起きます。

例えばみんなの日本語23課「とき」の文型練習でこんな例文があります。
「道を渡るとき、車に気を付けます」
ここで、「道」「渡ります」「気を付けます」が23課の新出語彙になります。学習者からしてみれば、すでに知っている言葉が「車」だけだと、もうやる気がなくなってしまいますよね。文法の時間は文法に集中してもらうためにも、語彙はあらかじめ覚えてきてもらう方がいいと思います。 

また、ただ語彙だけのリストを渡して「覚えてきてください」だと、不十分です。なぜなら、日本語の意味範疇が他の言語の意味範疇と違う場合があるからです。
例えば「見ます」を学習者自身が辞書で調べて「see」が出てきたとします。「see」は「見る」以外にも「理解する」「会う」といった幅広い意味があります。そうなると、このような誤用が出てきます。 

T:昨日は何をしましたか?
S:友達と見ました。 

本来なら「友達に会いました」となるべきところが、学習者自身の言語では「I saw my friend.」なので、当然「見ます」を使うと思ってしまいます。尚且つ「見ます」だけを覚えているので、前にどんな助詞が付くのかわかりません。そこで「と」を使ってしまってこのような間違った文を作ってしまうのです。

これは極端な例だと思うかもしれませんが、間違った語彙の教え方をされた生徒さんの実際の誤用です。  
このような理由から、語彙を教える時はあらかじめ語彙の学習時間を作って、短い文章で教えるという方法を取っています。

・あらかじめ語彙の学習時間を作る
・短い文章で教える

語彙シートを使って時短に!

では実際私がやっている方法を具体的な例で紹介します。今回はみんなの日本語14課の語彙で見ていきましょう。

まず14課は初級で最初の難関「て形」が登場する課になります。「て形」を教えるに当たって新出語彙もたくさん出てきます。できれば「て形」の練習に集中させるためにも語彙はあらかじめ覚えてほしいところですよね。
こちらが14課の語彙の一覧です。

V

つけます 消します 閉めます 開けます 急ぎます 
止めます[音楽を] 止めます[車を] 曲がります[右へ] 待ちます  取ります 
手伝います 呼びます 話します 見せます 教えます[住所を]始めます 
降ります[雨が] コピーします 

なadj

いadj

N

エアコン パスポート 名前 住所 地図 塩 砂糖 読み方 方 お釣り

副詞

ゆっくり すぐ また 後で もう少し もう~ まっすぐ

その他

さあ あれ? いいですよ。 信号を右へ曲がってください。 これでお願いします。 


私はこの中で動詞と名詞のいくつかは語彙学習の時間に導入します。副詞やその他(フレーズ)は授業内で文章の中で導入します。
語彙学習の時間に導入する語彙はすべてイラストを使って教えます。学習者に合わせて漢字版・ひらがな版・ローマ字版・英語版・イラストのみ版・テスト版と5つのバージョンを用意しました。クリックするとPDFが見られるようになっています。

語彙の導入方法

私が実際にどんな文章で、どんな所を意識して語彙を教えているか紹介します。 

「つけます」

T:つけます
S:つけます
T:エアコンをつけます
S:エアコンをつけます
T:電気をつけます
S:電気をつけます


「開けます」

T:開けます
S:開けます
T:ドアを開けます
S:ドアを開けます
T:窓を開けます
S:窓を開けます


「待ちます」

T:待ちます
S:待ちます
T:彼女を待ちます
S:彼女を待ちます
T:駅で彼女を待ちます
S:駅で彼女を待ちます

「話します」

T:話します
S:話します
T:友達と話します
S:友達と話します
T:友達と日本語で話します
S:友達と日本語で話します
T:友達と電話で話します
S:友達と電話で話します


「見せます」

T:見せます
S:見せます
T:パスポートを見せます
S:パスポートを見せます
T:空港の人にパスポートを見せます
S:空港の人にパスポートを見せます

「始めます」

T:始めます
S:始めます
T:仕事を始めます
S:仕事を始めます
T:9時に仕事を始めます
S:9時に仕事を始めます

ここでのポイントは4つあります。
①     助詞(「を」「に」「で」「と」等)に意識しながら教える
  大体の動詞が「を」を使うので「を」を使わない動詞の時は特に注意します。(「~と話します」や「~に会います」等) 

②     どんな目的語と結びつくのかにも意識する。(「つけます」は「エアコンを~」「電気を~」「テレビを~」等)

③     語彙の勉強なのでできるだけシンプルな文で提示する。(〇「荷物を持ちます」×「荷物を持ちましょうか」) 

④     既習の言葉だけで文章を作る。(〇「空港の人にパスポートを見せます」×「係りの人にパスポートを見せます」

学習者には語彙シートの開いているスペースに、「エアコンを」「電気を」「友達と」などとメモしてもらいます。既習の言葉なので板書の必要はないです。板書をすると時間がかかってしまうので、このようなシートを配布してできるだけ時短でやっていきます! 14課ぐらいの語彙の量なら、10分ぐらいでできるかと思います。

授業前の5分チェック

語彙を導入した後は、学習者が自宅で覚えて来なければなりません。私はいつもこの語彙を覚える作業を宿題にしています。

ただ単に宿題と言っても、テストとかチェックがなければなかなかやって来てくれないものです。そこで、毎回の授業のたびに簡単な語彙チェックをしています。

やり方は、PCや絵カードでイラストを見せて、学習者に語彙を含んだ文章を言ってもらうだけなので、5分ぐらいで終わると思います。この作業で学習者がきちんと語彙を覚えてきたかどうかや、正しい助詞が使われているかどうか、文の中で本当の意味での理解ができているかどうかがチェックできます。

たった5分間、語彙の学習にあてるだけで、授業もスムーズに進むし、語彙の定着も図れるのでお勧めです

学習者におすすめ語彙の学習方法

教師がいくら頑張って工夫して教えたとしても、学習者自身が覚えてきてくれなければ意味がありませんよね。そこで、学習者には当サイトが開発した単語学習アプリで学習してもらえるといいと思います。

このアプリは、「みんなの日本語初級Ⅰ・Ⅱ」やJLPTのN5・N4に対応していて、尚且つLangoalの語彙シートと同じイラストを採用しています!音声や例文もあるので、一人でただひたすら単語を覚えるよりも楽しく効率的に学べると思います。

アプリに関しては別記事で詳しく紹介していますので、興味のある方はぜひこちらを参考にして見てください!(→Langoal Appの使い方)

まとめ

今回は初級日本語の語彙の教え方を紹介しました。いくら教師がいい授業をしたとしても、学習者が語彙をきちんと覚えてきてくれなかったら意味がないと思っています。

この方法は毎回の授業で語彙に触れることができるので、びっくりするぐらい語彙が定着します!この方法を使ってぜひ皆さんも試してみてください。語彙シートに関しても、みんなの日本語全課あるので、ぜひ使ってみてください。

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